「 投資も友好もすべて“人質” 冷酷非情と現世利益追求 これが中国のやり方だ 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年5月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 593
5月16日、小泉純一郎首相が靖国神社参拝問題について「他国が干渉すべきではない」と正当な主張を展開したのに対し、中国政府が即、反応した。17日、外務省の孔泉(こうせん)報道局長が、靖国問題は「いかに正しく歴史に向き合うかの問題だ」「日本の指導者は実際の行動で」「謝罪と反省」を示すべきだと反論したのだ。
このような反応を見て、日本の財界人のなかには、日本IBMの北城恪太郎会長や富士ゼロックスの小林陽太郎会長のように、またもや中国政府の意向を汲んで、小泉首相に靖国参拝を見合わせるよう要請する人びとも出現するかもしれない。歴史も国家観も振り捨てて商売にのみまい進するかのような行動は、しかし、彼らが熱意を込めてその意に従おうとする肝心の中国政府には必ずしも通用しない。
5月18日付の「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)」紙が一面で伝えた「中国のイメージの汚点」という記事を、経済界のチャイナスクールは心して読むべきだ。内容を簡単に紹介する。
中国・上海生まれのデイビッド・ジィ氏は2000年に米国籍を取得、カリフォルニア州のアペックス・ディジタル社の社長となった。同社は、中国の国営企業との取引で安価な部品の供給を受けることで業績を大きく伸ばし、テレビ、DVDプレーヤーなどの米国市場での占有率は抜きん出たものとなった。そしてジィ社長は昨年秋、商談のために中国を訪れた。
予定を過ぎても帰ってこないジィ社長を当初、家族は心配しなかった。「多忙で予定が延びた」と考えていたのだ。ところが昨年11月の初めに、中国当局に逮捕されていたこ
とを知る。
調べてみると、ジィ社長はホテルの一室に軟禁され、24時間、少なくとも3人の警官が監視、手洗いに行くにも彼らの目が光っていることが判明した。逮捕拘禁に際しては逮捕令状も示されず、当初は弁護士も付けられていなかった。会社の弁護士との接見がようやく許されたが、そのときでさえ、警官らが同席した。
同社長の娘、ジーン・ジィ氏が語っている。「中国側はビジネス交渉を有利に進めるために、交渉材料として父を拘束しているのです」「これが中国のやり方。CEOを人質に取って、商売の軋轢を中国有利に逆転させるのです」。
「IHT」紙は「“中国のやり方”はジィ社長の例に限らない」と強調している。その指摘を待つまでもなく、中国の“やり方”について、私たちはすでに多くの苦い体験を知っている。中国はあらゆる力を使って自分たちの利益を守り、主張を押し通す。彼らの主張が正当性を欠いていても、彼らは意に介さないのだ。
典型例が、今年3月末の台湾の“許文龍(きょぶんりゅう)氏事件”である。氏は日本でもよく知られる台湾財界の重鎮で、奇美(きび)実業の創立者、根っからの台湾独立派である。陳水扁(ちんすいへん)政権の誕生にも、彼は大きく貢献した。というより、陳氏の勝利は、許氏の支援なしにはおぼつかなかった。
台湾の統合を目論む中国政府は、許氏を憎み、許文龍つぶしを画策した。奇美実業が中国に注入してきた巨額の投資、工場、施設、従業員、役員らは、中国にとっては願ってもない“人質”である。彼らはその“人質”を巧妙に活用し、許氏を締め上げ、ついに許氏をして“中国は一つ”“台湾独立に私は反対”との誓約書を書かせ、これを公表したのだ。
中国への投資で奇美実業も発展したが、中国も大いに潤った。それでも最後は、中国はすべてを自己目的のために利用する。中国経済に寄与したことなど一顧だにせず、感謝もせず、中国経済に貢献した人物をもたたきつぶすのだ。この徹底した冷酷非情と現世利益追求が中国のやり方だと、日本人は認識する必要がある。